私が子供の頃、母親の実家で稲刈りを手伝ったことがあります。小学校6年生くらいの時でした。大人に鎌の使い方を教えてもらい、「稲を順手で持たないと手の影ができて危ない」と注意されたことをよく覚えています。影で手元が見えなくなると、どこに刃が当たるか分からない――そんな実感のこもった教えでした。
また、普段の生活では鉛筆削り器などなく、母親が使っていたカミソリで鉛筆を削っていました。よく手を切り、血が止まりにくくて困ったものです。「手を心臓より高く上げると血が止まりやすい」と聞いて、慌てて腕を上げた記憶も鮮明です。
中学の版画の授業でも同じことがありました。彫刻刀で版を彫る際、誰かが必ず指を切り、教室のあちこちで絆創膏を巻いていました。先生は「版を押さえる手は、刃先の進む方向に置くな」と繰り返していましたが、やっぱり怪我はつきものでした。危ないからこそ、刃物の扱い方を体で覚えていったのです。
今の子供と刃物との距離
現代の子供たちはどうでしょうか。家庭や学校には手動・電動の鉛筆削り器が当たり前にあり、鉛筆を削るためにナイフやカミソリを使う機会はほとんどありません。電動タイプなら削りすぎ防止機能や安全ストッパーも付いており、危険を経験することなく鉛筆を整えられます。
便利な反面、刃物に触れずに大人になることも珍しくなくなりました。「危ないから持たせない」という考え方は合理的ですが、一方で「道具は危険だからこそ、正しく使い方を学ぶ必要がある」という考え方も根強くあります。
刃物ごとの使い始め目安
刃物の使い方に「絶対この年齢から」という基準はありません。ただし、家庭や学校では次のような目安があります。
包丁
料理に欠かせない包丁は、3〜4歳ごろから子供用包丁で練習させる家庭が多いです。保育園や小学校でも食育体験として野菜を切らせることがあります。大人がそばについて「猫の手」を教えるのが鉄則です。
ナイフ
アウトドア活動で使うナイフは、小学校低学年から中学年あたりが目安。海外のモンテッソーリ教育では幼児期から小さなナイフを与える例もあります。私自身、鉛筆を削るために小刀のようなナイフを使ったことがあります。当時はただ「ナイフ」と呼んでいましたが、今振り返ると「肥後守(ひごのかみ)」や「ボンナイフ」といった名前のものだったのかもしれません。名前を知らなかっただけで、実際にはそうした小刀に触れていたのだと思います。
カッターナイフ
学校の図工や工作で使い始めるのは、小学3〜4年生くらいが多いです。刃を出しすぎない、力を入れすぎないといったルールを徹底して教える必要があります。
カミソリ
本来は大人用ですが、私の世代では鉛筆削りに再利用することもありました。現在では子供がカミソリに触れる機会はまずありません。
はさみ
最も早くから触れる刃物がはさみです。2〜3歳ごろから先の丸い子供用はさみを使い始め、紙を切る練習を通じて手先の器用さを養います。
刃物教育に大切なのは「基準」よりも「姿勢」
刃物をいつから使わせるかに明確な基準はありません。子供の発達の早さや性格、そして家庭の教育方針によって大きく変わります。
- 危ないから一切触らせない家庭
- 危ないからこそ早く教える家庭
- 学校や地域活動の中で自然に学ぶ家庭
どれも一つの形ですが、共通して言えるのは「大人が安全な環境を整えること」です。刃物は危険であると同時に、正しく扱えば一生役に立つ道具です。
まとめ:道具の怖さと便利さを伝える
私自身は、鎌での稲刈りやカミソリでの鉛筆削りを通して、刃物の怖さと便利さを同時に学びました。現代の子供たちは、危ない思いをしなくても安全な道具で生活できます。けれども、だからこそ大人が正しい使い方を意識的に教えることが大切です。
あなたは子供に刃物をどう教えますか?包丁やナイフ、カッターに触れるその瞬間こそ、危険と向き合いながら「生きる力」を育てる貴重な経験になるはずです。
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