においのない世界で、気づいた“本当に欲しいもの”──極限の雪山が教えてくれた感覚の話


🖋 本文


【はじめに】

さんまさん司会のテレビ番組に、登山家の野口健さんと娘の絵子さんが出演していた。
彼らが語ったのは、メラピーク6476メートルの雪山での話。そこは「におい、音がまったくしない世界」だったという。

植物も動物もいない、無菌に近い環境。
風は吹くが、花の香りも排気ガスも、何のにおいもしない。

それを聞いて、私は思った。

「においがないって、どういうことだろう?」
「そして、そんな環境で“欲しくなるもの”とは?」


【雪山の極限環境──無臭の世界】

標高6000メートル。植物も生き物も育たない場所。
そこでは空気ににおいがない。鼻に届く刺激がない。

ふだん私たちは、意識しなくても様々なにおいを感じている。
朝のコーヒー、通勤電車のにおい、夕食のにおい、街のにおい。

でも、においが完全に消えたとき、
人は「嗅覚が鋭くなったように感じる」という。

健さんは、自分の嗅覚が鋭くなりすぎてしまい、
下山してから電車の中で「においを嗅ぎすぎて注意された」と話していた。

それだけ、嗅覚は“慣れ”に左右されやすく、刺激がないと敏感になるのだ。


【本能が選ぶ──即席ラーメンの話】

さらに興味深かったのは、雪山での食事の話。

「ふだんは絶対に食べないけど、登山中はなぜか即席ラーメンが食べたくなる」
そう言って、ふたりでラーメンをすするという話が印象的だった。

冷えた体に、あつあつのスープが‥‥‥。健さんは地上では絶対食べない  

”辛らーめん”を毎朝食べる。寒くてしょうがない。

空気が薄く血行障害?指がかじかむ。身体が温まる。
濃い塩分、油、炭水化物──体が欲しがるものがすべて入っている。

標高が高くなると、味覚も嗅覚も鈍くなる。
そんななかで、体が本能的に「これが必要だ」と判断するのだろう。

そして面白いのは、「その時の体調によって、欲するものが人によって違う」こと。

同じ場所にいても、人それぞれ違う「足りないもの」を補おうとする。
体は、ちゃんと自分の声を出している。


【感覚を研ぎ澄ますということ】

この話を聞きながら私は、ふと考えた。

私たちの五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)は、日々の雑音や刺激に囲まれ、
逆に「感じなくなっている」のではないか、と。

感覚は、遮断されるとむしろ鋭くなる。

  • 無音の中で、小さな物音に気づく。
  • 無臭の空間で、香りが際立つ。
  • 真っ暗な中で、触れた感触が豊かになる。

つまり、「五感を研ぎ澄ますには、刺激を増やすのではなく、いったん減らす」ことが効果的なのだ。


【五感を鍛える、日常の小さな訓練】

五感を取り戻すには、特別な道具も費用もいらない。
日常のなかで、ちょっとした“やってみる”が大きな変化を生む。

ここにいくつかの実践例を紹介する。


●視覚のリセット

  • 朝の散歩で、あえて色の少ない場所(曇り空、田んぼ道)を歩く
  • 「今日は◯色をいくつ見つけられるか」と色に注目してみる。
  • 自然の中にある「整っていない美しさ」に気づけるようになる。

●聴覚の目覚め

  • 朝の静かな時間、1分間だけ目を閉じて、音を探してみる
     → 鳥の声、風、冷蔵庫の音、遠くの車。
  • 雨の日には、窓を開けて雨音に集中する。
     →「耳で風景を描く」習慣になる。

●触覚の再発見

  • 目を閉じて、コップやスマホを触ってみる。
     → 素材の違いや温度に気づく。
  • 素足で芝生や畳を歩いて、足裏感覚に意識を向ける。

●嗅覚の再起動

  • 無香空間で、1種類のアロマを試す(ラベンダーや柑橘系など)。
  • 食べ物の香りを意識的に吸い込んでみる。
     → 鼻から深く香りを吸うだけでも、脳が活性化される。

●味覚の深掘り

  • ひとくちごとに「味を分析」して食べる。
     → 甘い、しょっぱい、酸っぱい…どれが一番強い?
  • 目を閉じて食べてみると、意外な味の豊かさに気づくこともある。

【調べてみると、わかること】

五感を研ぎ澄ます訓練については、ネットや専門書で調べると、
「感覚を使って脳を活性化する方法」として多く紹介されている。

とくに意識されているのは、感覚の集中=脳の集中力や注意力を高めること
具体的には、次のような効果があるとされている。

  • ✅ 認知機能(記憶・集中・判断力)の改善
  • ✅ ストレスの軽減とリラックス
  • ✅ 直感力や創造力の向上
  • ✅ 自己の内面(体調や感情)への気づき

つまり、「五感を鍛える」とは、単なる遊びではなく、
“自分を取り戻す”ための静かな習慣なのかもしれない。


【おわりに──体が教えてくれること】

この話から私が学んだのは、

「感覚を研ぎ澄ますには、まず“感じない時間”をつくること」
「そして、人は体で“本当に欲しいもの”を知っている」

ということだった。

ラーメンが食べたくなるのも、においを嗅ぎたくなるのも、
体が「いま、これが必要だよ」と教えてくれているサインかもしれない。

散歩でも、瞑想でも、静かな時間を持つこと。
それが、「自分の感覚を信じる力」につながっていく。

そしてその感覚は、健康にも、心の落ち着きにも、学びにもつながっていくのだ。


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