「芸は身を助く」という言葉がある。
昔は、特別な才能を持った人の話だと思っていた。
でも、長く生きてみると、少し意味が違って見えてくる。
上手いかどうかじゃない。
続けていた“何か”が、人との縁をつくっていた――そんな気がする。
子どもの頃は野球ばかりやっていた。
高校では軟式テニス。社会人になると、また草野球に呼ばれた。
バドミントンも少し、ギターも少し。うまくはない。
でも、そのどれもが「人と同じ時間を過ごす理由」になっていた。
一緒に笑い、一緒に負け、同じ空気の中にいた。
ただそれだけのことなのに、不思議と人は近くなる。
思い出すのは、交代勤務のころ。
同じ班の仲間5〜6人で、よく近くの山に登った。
特別な趣味でも、トレーニングでもない。
ただ一緒に歩き、息を切らし、山頂で空を見ただけ。
でも――あの時間は、今でも残っている。
年に一度か、偶然どこかで会うことがある。
すると、その瞬間、あの山の空気がよみがえる。
言葉はいらない。「あの時間」を共有した感覚だけが戻ってくる。
なんなんだろうな、と思う。
一緒に苦労したこと。
笑ったこと。
小さな達成感。
そういうものを共有した時間が、縁を太くしていたのかもしれない。
もし、あの趣味がなかったら。
あの人たちと出会っていなかったかもしれない。
あの時間も、あの感覚も、存在しなかった。
上手じゃなくてもよかった。
続けていただけで、人生に“つながり”ができていた。
定年後の今、思う。
趣味は、技術を磨くためだけのものじゃない。
人と人を、静かにつなぐものでもある。
うまくなくていい。
派手じゃなくていい。
好きなことを少し続けているだけで、
人生には、ちゃんと縁が広がっていく。
たぶん、それで十分なんだと思う。

コメント