✍️本文
タイミングを外せる人は強い
~ピッチャーに学ぶ呼吸と相性の話~
ある日、テレビで野球解説を聞いていたとき、こんな言葉が耳に残った。
「このピッチャー、ボールを投げたあとに腕が出てくるんですよ。バッターはタイミングが取りづらいんです」
なるほど、と思った。
確かに、ボールのスピードだけでなく、「いつ来るかわからない」ことが一番の脅威なのだ。
タイミングをずらすという技術
ピッチャーが「腕が遅れて出てくるフォーム」で投げると、バッターは目で追いづらくなる。
肩や上半身が先に動いて、ボールが突然出てくる。
打者にとっては、出所が見えない。速いか遅いかではなく、「ズレる」。
これが、打ちづらさの正体なのだろう。
合うバッター、合わないバッター
面白いことに、同じピッチャーでも「このバッターにはめっぽう強い」「このバッターにはなぜか打たれる」ということがある。
相性、というのだろうか。
おそらく、技術だけじゃなく、人としての「呼吸」があるのだと思う。
呼吸が合えば、相手のタイミングもわかる。
でも、逆に言えば――タイミングが合いすぎると、ボールも「読みやすく」なってしまう。
呼吸が合うと、打たれることもある?
ある野球漫画で、バッターがピッチャーの呼吸を観察して、心を静めていたシーンを思い出す。
それは、ちばあきお作『キャプテン』だった。
主人公がマウンドで投げる相手をじっと見つめ、呼吸を合わせることで落ち着きを取り戻し、自分のタイミングを作っていく――そんな描写が印象的だった。
スポーツにおいても、人間関係においても、相手のリズムにのまれるのか、それともズラすのか――そこに駆け引きがある。
人と人の付き合いも、似ている。
呼吸が合えば、心地いい。
でも、呼吸が合いすぎると、相手の一挙手一投足が先読みできてしまい、うまくいかないこともある。
自分のリズムを保ちつつ、少しだけズラす
ピッチャーが打たれないために工夫するように、私たちも、時には「ちょっとズラす」ことが大切なのかもしれない。
言葉を飲み込むこと。
相手のペースに乗りすぎないこと。
空気を読みすぎないこと。
それは、逃げることでも、拒絶することでもない。
むしろ、「うまく付き合うための投球術」なのかもしれない。
おわりに
野球のピッチャーが、速さだけじゃなく「間(ま)」で勝負しているように、
私たちも、人生というバッターと向き合っている。
今日も、ひと呼吸おいて――自分のタイミングで、投げてみよう。
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