パンでお皿を拭いた日

価値観

──食べ物の命に「ありがとう」

若いころ、ある訓練に参加していたときの話です。

昼食の時間、カレーかスパゲッティを皿によそってもらい、静かに食べました。
食べ終わったあと、こう言われました。

「パンで、お皿に残ったソースを拭き取って食べてください。」

最初は少し驚きました。
でも、その理由を聞いたとき、胸の奥に何かが残りました。


食べ物は、ただの栄養ではない。
それぞれが生きていた「命」だと教わりました。

その命をいただいて、私たちは生きている。
だから、一口も無駄にしない。

パンで皿を拭く行為は、行儀や訓練ではなく、
命への「ありがとう」だと。


正直に言えば、あのとき私はショックを受けました。

食べ物は、人間のためにあるわけではない。
それぞれの命を絶って、私は生きている。

その事実を、はじめて真正面から感じた気がしました。


今でも、肉を食べるとき、少しだけ立ち止まります。
この命があって、いまの私があるのだと。

菜食主義者が肉を食べない気持ちも、少しわかる気がします。
命を奪わないという選択。
それもまた、一つの誠実さだと思う。

私は肉を食べます。
けれど、感謝だけは忘れたくない。


何十年も経った今でも、
皿に残った一口を見ると、あの日を思い出します。

食べ物は命。
だから、今日も静かに言いたい。

いただきます。
そして、ありがとう。

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