ゾーンに入った男──大谷翔平に見る“観察と修正”の極意

気づき

ナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS)第4戦。
ワールドシリーズ進出まであと1勝と迫ったドジャースは、敵地ミルウォーキーでブリュワーズと対戦した。
このシリーズで打撃不振に苦しんでいた大谷翔平は、第4戦でついに爆発。
3打数3安打3本塁打、投げても6回無失点10奪三振という圧巻の内容で、チームを5対1の勝利に導いた。
ドジャースは4連勝でシリーズを制し、大谷はシリーズMVPに輝いた。


第1章:3本塁打・10奪三振、その裏にあった“観察のバット”

この試合で話題になったのは、大谷翔平が手にしていた黒地に銀色が塗装された特注バットだった。
コーチによると、これは「スイングの軌道を視覚的に確認するための道具」として使われていたという。
大谷本人の意図は明かされていないが、感覚と実際の軌道を“見える化”して修正に役立てていた可能性がある。

さらに、この復活劇の伏線となった出来事がある。
シーズン終盤に入ってから2年ぶりとなる屋外での打撃練習を行い、
「風を感じながらの打撃が、感覚を取り戻すきっかけになった」と関係者は語っている。
密閉空間では掴めない感覚を、自然光と風の中で確かめ直したのだ。

その効果が表れたのが前戦のスリーベースヒット。
当たりの鋭さ、打球の角度、タイミング。
あの一打が「復調のサインだった」と解説者たちは口を揃える。
翌日の第4戦での3本塁打は、偶然ではなく、
観察・修正・再現の積み重ねの先にあったのだろう。


第2章:五十嵐亮太の分析──“ゾーンに入った”理由

元メジャーリーガーの五十嵐亮太氏は、この日の大谷をこう評している。

「極限の集中状態で、ゾーンに入っていた。自分を鼓舞するようなホームランだった。」

「ゾーン」とは、意識と身体の動きが完全に一致した状態。
五十嵐氏は、「大谷はその境地に自らのリズムで入り込んでいた」と語る。
さらに投球面についても、

「今の大谷はスイーパー、スライダー、カーブ、スプリットで空振りを取れる。打者を完全に見切っていた。」
と分析している。

これは、感覚だけに頼らず、相手を冷静に“観察”していたことの証だ。
打者の反応、ボールの軌道、自分の体の動き――それらを積み重ねて整えていく中で、
結果として“ゾーン”にたどり着いた。

五十嵐氏の言葉を借りれば、
「偶然のゾーン」ではなく、「準備のゾーン」。
大谷の冷静さは、観察力がもたらした集中状態にほかならない。


第3章:工藤公康と江夏豊──“観察力”の系譜

この“観察して修正する力”は、過去の名投手にも共通している。

工藤公康は、ダイヤモンド・オンラインのインタビューでこう語っている。

「才能があっても伸びない人と、平凡でも活躍できる人を分けるのは、観察力だ。」

現役時代、工藤は他の選手のフォームをじっと観察し、
良い部分を取り入れながら成長を続けた。
「学びを止めない」という姿勢こそ、長い現役生活を支えた基盤だった。
大谷のデータ分析的な観察とは異なるが、
**「自分を見つめ、他人から学ぶ」**という点では通じるものがある。

そしてもう一人、江夏豊。
1979年、日本シリーズ第7戦の「江夏の21球」。
9回裏1アウト満塁という極限の場面で、
彼は相手打者の心理を読み切り、21球で切り抜けた。

この伝説的な場面は、2025年10月17日にNHK『時をかけるテレビ〜今こそ見たい!この1本〜』で再放送された。
司会は池上彰氏、ゲストはお笑いコンビ「ナイツ」の塙宣之氏。
番組では、当時の映像を交えながら、野村克也氏(当時は解説者として出演)が江夏の投球術と心理戦を解説。
1979年当時の近鉄バファローズ監督は西本幸雄氏である。
データもAIもない時代に、江夏は表情や間合いを読み取り、感情と技術のギリギリで勝負した。
まさに、“観察の眼”で時代を超えた名勝負
である。


私の感想――考えて、観察して、また考える

正直に言えば、私は“なぜ”の答えを一つに決められない。
考えて、観察して、真似て、試して、また直して――その繰り返しの中で、
何が正しいのか、何が違うのかも時々わからなくなる。

けれど、その「わからなさ」の中で手を止めずにいる人が、
少しずつ、自分の形を見つけていくのかもしれない。
大谷の姿を見て思ったのは、考えることをやめない人は、どこかで必ず光を掴むということだ。
私にとっての“観察”は、まだ途中の旅のようなもの。
今日の答えが明日変わっても、それでいいと思っている。


結論:観察は、最強の武器になる

江夏は相手を観察し、
工藤は他人を観察し、
大谷は自分を観察した。

時代も環境も違っても、結果を変える力は同じ。
それは、「観察し、修正し、続けること」。

才能を超えるのは、観察と習慣。
ゾーンに入る人は、偶然ではなく準備の人。

大谷翔平の3本塁打は、まさにその象徴だった。
そしてその背後には、見えない努力と冷静な“観察の目”があった。

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