──1/fゆらぎなんて言葉よりも
最近、朝の散歩が日課になっている。
田んぼ道を歩いていると、小さな川の流れが耳に入ってくる。
ある日、ふと思った。
「あれ、この音……雑音じゃないな」
水が流れているだけの音。
決して静かではない。
でも、うるさくない。
耳に残らない。
邪魔をしない。
ただ、そこにある。
昔のことを思い出した。
まだ膝や腰に不安がなかったころ、
近くの山に登っていた。
頂上に近づくと、風が木々を揺らし、
葉の間を抜けてくる。
あの風も、川の音と同じだった。
強く主張しない。
ただ、包み込むようにそこにある。
人の多い場所では、私はどこか気を張っている。
誰かに何かを求められているわけでもないのに、
無意識に空気を読み、少しだけ自分を整えている。
でも川の音は、私に何も求めてこなかった。
ただ流れているだけ。
だから私は、何者にもならなくてよかった。
そういえば昔、扇風機に「ゆらぎモード」というボタンがあった。
自然の風を再現すると書いてあった。
あのときは、ただの機能だと思っていた。
でも今なら少しわかる。
規則的すぎず、不規則すぎない。
自然のリズム。
1/fゆらぎ。
難しいことは分からない。
ただ、心がざわつかない。
それだけで十分だ。
「静か」とは、音がないことではない。
音に包まれていても、
心が揺れないこと。
川の流れを聞きながら、
そんなことを思った。
テクノロジーが進んで、
音も映像もきれいになった。
でも、散歩の途中で耳に入る川の音に、
勝てるものはなかなかない。
今日もまた、
ただ流れている音の中を歩く。
それでいいと思えた。

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