砂一粒に二日間やられた話

違和感

昨日の散歩で、足の裏が痛くなった。

昨日は雨だった。大した雨じゃない。傘がないと困るかな、その程度だ。風もそこそこある。強くも無風でもない、歩くのに気にはなるが諦めるほどでもない風だ。俺は風の強い日は散歩に出ない。それが基準になっている。昨日は出られる日だった。

路面はしっかり濡れていた。水たまりもある程度できていた。避けながら歩いたが、靴はだいぶ濡れた。足がなんか冷たいな、と思いながら歩いていた。家に帰って靴を脱いだら、やはり靴下が濡れていた。そういう日だった。

右足の裏、何かある。歩きながら感じる。靴の中に何か入ったか。でも雨だった。片手には傘がある。靴を脱ぐには両手がいる。路肩にしゃがんで、傘を挟んで、靴を——めんどくさい。歩いているうちにどこかへ逃げるだろう。そのまま歩き続けた。

しばらくすると、痛みが消えた。やっぱり移動したか。そのまま歩く。忘れた頃にまたやられる。

痛い→消える→痛い→消える。こいつは出たり引っ込んだりしながら、最後まで付き合ってきた。家に帰って靴を脱いだとき、別に調べもしなかった。明日には消えてる、そう思って終わりにした。

昨日のやつがまだいる

今日は晴れだった。同じコースを歩いていると、また痛くなった。昨日のやつがまだいる。

信号待ちで止まった。停車中の車の死角に入りそうな電柱の影に隠れ、靴を脱いだ。空は青くて雲ひとつない。昨日の雨が嘘みたいだった。田舎だから歩行者は誰もいない。それでも一応、隠れた。なんで隠れるのかよくわからないが、靴脱いで中を覗いてる66歳、絵面がよくないのかもしれない。

靴の中を覗いた。砂が一粒、あった。

これか。俺、このために二日間いそいそ歩いてたのか。この憎っき砂を手のひらに乗せて、睨みつけてやろうとした。靴をひっくり返した。どこかに落ちたのか、風に飛んだのか、手のひらにも地面にも見当たらない。最後まで姿を見せなかった。二日間やられておいて、睨みつけることすらできなかった。こっちの負けじゃねーか。砂一粒に、二日間やられて、最後に逃げられた。製造現場で40年、もっとでかいトラブルを何十も片付けてきたはずなのに。

また履いて、歩き出した。痛くない。

砂に負けてたな、俺

砂一粒だった。

昨日、雨だったのは本当だ。傘を持ってたのも本当だ。でも、両手が必要かって言ったら、そうでもない。傘を腋に挟めばよかった。脱げないと思ってたのは全部俺の中の話で、実際には試してもいなかった。

俺の方が浅はかだったかも。

昨日、脱げないって思ってたのは俺だ。砂のせいじゃない。すぐ脱げばよかった。それだけの話だ。

暇だな、俺も

ただの砂一粒の話を、こんなに長く考えている。退職したら砂一粒に手こずってる。

暇だな、俺も。

でも、こういう小さい引っかかりを、歩きながらぐるぐる考えるのが、今の散歩の中身だ。悪くはない。

今日もちゃんと歩いた。それでいい。俺、負けてたな。

ま、明日もまた歩くか。