3月20日付で退職した日、スマホを開いて社長の社内アドレスを探した。もう会えなくなると思ったからだ。「3月20日付で退職します、今までありがとう」と送った。返信に携帯番号があった。予想していなかった。こちらも番号を教えた。そこからショートメールで繋がった。社長もその後、6月に退職した。
退職してから、男友達はいなくなると聞く。そうなのか、と思った。俺には思い当たる顔が何人かいる。ガキの頃からの大工のやつ。会社での仲間。最近知り合ったコミュニティの連中。数えたら5、6人にはなるかもしれない。ただ「自分がそう思っているだけかも」という気もする。友達は、向こうも友達だと思っているのか。それはわからない。
30年、会っていなかった
その3人とは、30年以上の付き合いだ。といっても、ずっと会っていたわけじゃない。
組織が変わり、部署が変わり、赴任先も変わった。会社にいながら、ほとんど会わなかった。退職したら、もう会えないかもしれない。お互い家庭もある。そんな気がしていた。だからメールした。俺がしなければ、会わなかっただろう。
退職後、3回会っている。冬は雪で会えなかったが、またそのうち会うだろう。うち2人は酒を飲まない。飯を食って、くだらない話をして帰る。それで十分だ。
地位は関係なかった
3人のうち1人が社長、2人が部長だ。俺は平のまま退職した。それでも会っている。地位が邪魔になったことはない。
多分、最初から地位で付き合っていなかったんだろう。志が似ていたのか、単に気が合っただけなのか、俺にはよくわからない。俺の方が単に図々しかっただけかもしれない。ただ、気づいたら今も繋がっている。
もう一人、ガキの頃からの大工のやつがいる。俺の家を建てた。退職後も「手が足りない」とメッセージが来る。対等に付き合えるやつだ。こういう縁は、会社とは別のところにある。
会うから、合うようになる
「合わないから会わなくなる」という話がある。逆もあると思う。会い続けるから、合うようになる。
友達とは価値観が似たやつだと言われる。でも最初から価値観が同じやつなんていない。会い続けた結果として、価値観が近くなっていくんじゃないか。逆に会わなくなれば、自然と疎遠になる。価値観が離れるのではなく、会わないから離れていくだけだ。
今は会えている。でも将来どうなるかはわからない。お互い年を取る。そのうち会えなくなるやつも出てくるだろう。それは仕方ない。
退職後の男に、会社という「強制的に顔を合わせる場所」はない。自分から動かないと、誰とも会わない日が続く。
正直に言えば、人間嫌いなところがある。寂しがりやのくせに、群れるのは嫌だ。でもそれがわかっているから、根底の価値観が似た人間が集まる場所を選んで参加している。嫌なやつがいれば行かない。それだけの話だ。
友達なんかいないじゃねーか、とふと思う日もあるかもしれない。でも、動いてみると案外いる。
ま、そんなところだ。
