※この記事にはアフィリエイト広告(楽天市場)を含みます。俺が持っているのは休刊前の号です。下で紹介するのは、5年ぶりに出た2026年版です。
新幹線の切符を6枚、駅の窓口で買った。締めて39,060円。
その窓口まで、車で30分かかった。
最寄り駅に、みどりの窓口は無い
俺の家から一番近い駅に、みどりの窓口は無い。隣の駅にも無い。一番近い窓口まで、車で30分だ。
こう書くと、たいてい言われる。
「券売機で買えばいいじゃないか」
そう言える人は、券売機が使える人だ。
券売機は、路線名を知っている人のためにできている
俺は使えない。
券売機の画面は、まず路線を聞いてくる。次に乗り換える駅を聞いてくる。その先をどう分けるかを聞いてくる。
正直に書く。
俺は、自分の家の前を走っている線が何線か、言えない。
隣の市までが何線で、その先が何線で、途中で会社が変わるのかどうかも知らない。60年以上ここに住んでいて、知らない。ちんぷんかんぷんだ。
近所の駅の券売機ですら、よく分からない。それが、行ったことのない駅を乗り継いで東京まで、大人2人で6枚となれば、俺には至難の業だ。
窓口では、紙が通じた
窓口は違った。
俺は紙を1枚持っていった。行き先、乗る列車、時刻、乗り継ぎ、席の希望。書くのに、けっこう時間がかかった。
窓口の若い人は、それを見て言った。
「あー、メモ取ってあるんですね。貸してもらっていいですか?」
そして、その紙を見ながら6枚を出してくれた。席は行きが9号車、帰りは3号車。二人がけの窓側という希望も、そのまま通った。
券売機は、この紙を受け取らない。
紙に書いてあるのは、俺の言葉だ。路線名は一つも書いていない。人はそれを読める。機械は読めない。
便利になったのは、誰だ
券売機が入り、ネットで買えるようになり、カードをかざせば改札を通れるようになった。
便利になった、と言われる。
でも、俺の側で起きたことはこうだ。
- 駅の人がやっていた「調べる」「組み立てる」が、こっちの仕事になった
- できない人は、車で30分走ることになった
便利になったんじゃない。駅の仕事が、客の宿題になっただけだ。
あの紙が、その宿題だ。前の晩に、俺が家でやった分だ。
なんだこれ。
「Suicaを持っていない」と言うと驚かれる
ついでに書いておく。俺はSuicaを持っていない。そう言うと驚かれる。今どき珍しい、と。
持たないんじゃない。持てない。
最寄り駅の改札には、タッチする機械そのものが無い。隣の市の駅は、カードがあれば乗れる。ただし売っていない。無くしても再発行しない。残高の払いもどしもしない。
「使えるけれど、面倒は見ない駅」だ。そこで持てと言われても、持ちようがない。
俺がデジタルを嫌がっているんじゃない。住んでいる場所が、持たせてくれない。
時刻表なら、3冊持っている

言っておくが、俺は電車が嫌いなわけじゃない。
交通新聞社の「小型全国時刻表」を、3冊持っている。2010年(平成22年)7月号が500円。2017年(平成29年)3月号と、2018年(平成30年)5月号が566円。
ばかみたいに、捨てないで持っている。1冊には付箋まで貼ったままだ。
もう走っていない列車の時刻が、そのまま残っている。でも捨てられない。
駅の名前が並んだ路線の地図を眺めていると、時間を忘れる。辞書と同じだ。引くためじゃなく、眺めるために開く。
でも、券売機は眺めさせてくれない。
あれは辞書じゃなくて、試験だ。制限時間の中で、正しい路線を正しい順番で答えろと言ってくる。後ろには人が並んでいる。
紙が読めないんじゃない。機械の作法に、ついていけないだけだ。
この時刻表、調べて知ったことがある。2021年(令和3年)8月号で休刊していた。いま売っているのは、約5年ぶりに1号だけ出た特別発行の2026年版だ。770円。俺の一番古い号から270円上がった。
減らされたのは、窓口だけじゃなかった。
5年ぶりに1号だけ出た2026年版が、今なら買える。俺が3冊持っているのと同じ、交通新聞社の小型全国時刻表だ。
JR時刻表増刊 小型全国時刻表 2026年版 2026年 3月号 [雑誌] 価格:770円 |
▶ 小型全国時刻表 2026年版(交通新聞社・770円/楽天市場)
数字も、いちおう書いておく
JR東日本は2021年(令和3年)5月、みどりの窓口を440駅から140駅程度へ「見直す」と発表した。数にすると約7割減だ。
実際に、2024年(令和6年)4月時点で209駅まで減った。混雑と苦情が広がり、同年5月8日、JR東日本の社長は「お客様に多大なストレスやご迷惑をおかけした」と謝って、削減をいったん止めた。やめたのではない。当面は今ある窓口を維持する、という一時凍結だ。
もうひとつ。新幹線や特急など近距離以外のきっぷは、2010年度(平成22年度)には半分が窓口で買われていた。2020年度(令和2年度)には2割まで減っている。
(出典:JR東日本「今後の駅の在り方について」2021年5月11日/削減の凍結は2024年5月8日の決算会見。日本経済新聞・ITmedia ビジネスオンラインの報道による)
数字だけ見れば、減らす判断は正しい。8割は窓口を使っていない。
ただ、俺はその2割の側にいる。そして俺の町では、その2割が全員だ。
本当に引っかかっているのは、たぶんここだ
「文句を言いたいわけじゃない」と書こうとして、手が止まった。
嘘だ。文句は言いたい。
ただ、本当に引っかかっているのは、値段でも30分でもない。
「便利にしました」と言われるたびに、自分が少しずつ、世の中の想定から外れていくことだ。
券売機が使える人が標準。カードを持っている人が標準。ネットで予約して駅で受け取れる人が標準。
その標準から、俺は静かに外されていく。誰かに怒られたわけでもない。通知も手続きも無い。ただ、窓口が減っていくだけだ。
切符は、封筒に入れて置いてある
39,060円の切符6枚は、封筒に入れて机の上にある。乗車券には有効期限が印字してある。
6枚の内訳は、乗車券と新幹線特急券が1枚になったものが行きと帰りで4枚、それに都内で乗り換える区間の切符が2枚。2人分で39,060円だ。
その1枚には、9,660円の内訳が「乗5,390・特4,270」と小さく刷ってある。券面には全部書いてあった。俺は、窓口の人が組んでくれるまで、それを知らなかった。
近いうちに、これを持って息子と2人で東京へ行く。
その日は、たぶん楽しい。
ただ、この6枚のために車で30分走ったことは、切符のどこにも書いていない。
便利になったのは本当だと思う。ただ、その便利は、駅から俺の側へ仕事が移った分だけの便利だ。
俺が困るのは、調べられないことじゃない。調べた紙を、読んでくれる人がいなくなることだ。
あわせて読みたい:年金の口座が、黙っていると公金受取口座になる
