工場のラインに立っていると、向き不向きってやつがはっきり見える。
手が速い奴、目が鋭い奴、段取りがうまい奴。
好きかどうかより、できるかどうかが先に出る場所だ。
あるテニスのプロ選手の話を聞いたとき、そのことを思い出した。
好きだったのはサッカーだった
その選手、もともとサッカーが好きで、サッカー選手になりたかったらしい。
でも、うまくなれなかった。
しょうがなくテニスに転向した。テニスは得意だったから。
最初は「しょうがなく」だ。
それでもテニスでは自信があって、そのままプロになった。
好きと得意は、別の話だ。
教えてもらえない会社にいた
俺が若い頃に入った会社、社長が放置型だった。
「背中を見て覚えろ」「自分でやれ」という空気が全体に漂っていた。
教えてもらえないから、伸びない。
伸びないから、自信もつかない。
「ここにいても成長できない」と判断して、辞めた。
仕掛けがないと人は育たない
製造業には「チームで課題を解決する仕組み」がある。
上司が部下に課題を与えて、みんなで話し合いながら問題を片づけさせる。
問題が解決すれば会社も儲かる。部下は考える力がついて、上司との距離も縮まる。
仕掛けがあるから、育つ。
放置は「自立を促している」じゃなくて、ただの手抜きじゃねーか。
でも俺がいた職場じゃ、そんな仕組みは影も形もなかった。
課長にチクチク言い続けた。何年も。何も変わらなかった。
後になって知ったんだが、あの課長、部長が苦手で動けなかったらしい。
部長に直接言ったらすぐ話が通って、異動OKになったそうだ。
は? じゃあ最初からそこに言えばよかっただけじゃないか。
そんな仕組み、誰も教えてくれなかった。
今更おせーんだよ。
それに気づいたのは、40年も経ってからだ。製造現場に40年いた。向いていたかどうか、今でもわからない。定年間際になって、やっと仕事を変えてもらえた。そのとき初めて、「あ、こっちの方が少しマシかも」と思った。40年近くかかって、ようやくそれだ。
俺の方が浅はかだったかも
「伸びない」と感じて辞めた俺の判断が、正しかったのか。今になって思う。
当時の俺に、自分の向き不向きをちゃんと見抜く目があったかどうか、怪しいもんだ。そもそも「伸びない」と感じた原因が、本当に自分の向き不向きだったのか。それとも、仕掛けのない職場が問題だっただけなのか。若い頃の俺には、その二つを分けて考える頭がなかった。
一方で、40年同じ場所に居続けても、向いてるかどうかわからないまま終わることもある。早く出た俺が浅はかだったのか、ずっと流されてた方が損だったのか。どっちとも言い切れないのが、また面倒くさい。
ま、そういうもんかもな
好きと得意は違う。それがわかっても、得意なことに気づく機会さえ与えてもらえなかったら、話にならない。
あのプロ選手は、得意な方を選んでプロになった。
俺は伸びない場所を出た。
どちらの答えが正しかったかは、もう少し後にならないとわからない。
ま、いっか。そういうもんだろ、人生なんて。
