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この音に魅せられた。
リットーミュージックの教則ビデオ、トライマスター・シリーズ。
その『ノー・リプライ』で鳴るギブソンJ-160Eのコードストローク。
ギタリスト土屋潔氏の演奏は、音もテクニックも素晴らしかった。

ビートルズのジョン・レノンが使っていたことで知られる、ギブソンJ-160E。俺もその憧れを胸に、1997年製の個体を手に入れた。だが、最初に弾いた時、ふと思った——「CDで聴いた“あの音”じゃない」
23年前、俺は同じことを書いていた
ギターの掲示板に、23年前に自分で書き込んだ文章がまだ残っていた。名前は伏せる。
(シリアル番号は伏せる)のJ-160Eを2002年5月24日にほぼ新品状態で中古で買いました。1997年7月製造品です。ビートルズのトライマスターシリーズNo/5でのノーリプライのサビの所にあこがれてJ-160Eを買いました。いろいろためしましたけどあの音がでません。
2003年3月30日
翌日には、こう続けている。
サドルをセラミックに交換してみたいです。お金が無いので交換は4月中旬にする予定です。弦の知識がないので教えてください。
2003年3月31日
23年経って、俺はまだ同じことをやっている。
あのとき「弦の知識がない」と書いた男は、そのあと何年もかけて9種類の弦を張り替えた。そして今は1本に決めて、2年替えていない。
その掲示板で、教わったこと
あのとき、詳しい人が答えてくれた。J-160Eを3本持っているという人だった。教わった中身を、俺の言葉でまとめるとこうなる。
- 弦を替えても、まったく同じ音にはならない
- この箱には、ニッケルの弦の方が合う。強い張力に弱いから
- 新しい年式はサドルの材質が違う。セラミックに替えたら、かなり近づいた
- 内側の骨組み、アース用の金属板、ナットの材質——古い個体とは造りがいくつも違う
- 強く弾き込め。そうしているうちに、新しい個体でも古いものに近い音になってきた
俺が翌日「サドルをセラミックに替えたい」と書いたのは、この助言を受けてのことだ。
23年前、名前も顔も知らない人が、見ず知らずの俺に手間をかけて教えてくれた。
特に気になったのが、『ノー・リプライ』でのコードストローク。近い音ではあるけれど、どこか違う。深み、硬さ、空気感——なにかが足りない。ビートルズのライブを観ると、ジョンはブリッジの近くを、硬いべっ甲のピックで思い切り弾いているようだ。
ビートルズの音は“加工されている”?
CDやレコードで聴くビートルズの音は、スタジオで録音・加工された音だ。ジョンやジョージはJ-160Eをアンプにつなぎ、エレクトリック・ギターのように扱っていたこともある。
ただ録音では、生音をマイクで拾って録ることが多かったとされる。そこにEQ補正やコンプレッサーがかかり、マイクの距離や角度でも音は変わる。
だから、俺がアンプなしで弾いた音と違うのは、ある意味当然なのかもしれない。
これが、俺の音だ。
1997年製のギブソンJ-160Eで、『ノー・リプライ』のコードストロークを弾いた。
練習はしていない。一発で録った。弦は細いやつ——たしかエクストラライトだ。2年替えていない。
音の差は“構造”にもある
俺の1997年モデルと、ビートルズが使っていた1960年代の個体には、こんな差がある。
- トップ材は、当時も今も3層の合板(ラミネート)。これは手抜きではなく、アンプで鳴らしたときにハウらないためにわざとそうしてある
- 内側の骨組み(ブレイシング)が、他のギブソンのアコギと違ってはしご型(ラダー)。これも音の出方に効く
- サドル(ブリッジの上で弦が乗る細い部品)の素材。1960年代の個体にはセラミックのものがある。ブリッジ本体は当時からローズウッドだ
- 弦巻き(ペグ)やブリッジピンの仕様も異なる
つまり、ギターの個体差+録音技術+演奏環境が絡み合って、「あの音」はできているのだ。
特に注目したのが、当時使われていたセラミック・ブリッジ。俺のギターにはもともとセラミック風の素材が使われていたが、本物のセラミックとは明らかに違う感触だった。そこで思い切って、セラミック製のブリッジに交換。
微妙だが、確かに音の芯が変わった気がした。少し硬質で、アタック感がはっきりする。あの時代の“カーン”というようなコードの響きに、一歩近づいたように感じる。

そして最近、こうも思うようになった。——やっぱり1962年製と同じ音は無理だ。作り方も違えば、材料も違う。あきらめの気持ちもある。
それでも、近い音に出会う瞬間は確かにある。たとえば、『ア・ハード・デイズ・ナイト』の冒頭のコード進行。G → C → G → F → G というあの流れでの、最初のGコード。開放弦で鳴るD音とG音は、俺のJ-160Eでもかなり近い空気感が出ると感じる。完全な再現ではなくても、ふとした瞬間にあのカン、カーンの音と、あの時代の響きがよみがえることがある。
その、最初のGコードだ。
※J-160Eの造りについて。3層の合板トップとはしご型(ラダー)のブレイシングは、アンプで鳴らしたときのハウリング対策として最初からそう設計されたもの。1954年発売で、電気で使うことを前提に作られたギターだ。ブリッジの調整式サドルにセラミックが使われていたのも本当で、ビートルズのレコードで聴こえる“カーン”という音の一因とされている。1969年ごろには木のサドルに変わった。(ここは記事を書いたあとで調べ直して確かめた。2026年8月)
弦は9種類試して、マーチンの80/20ブロンズに落ち着いた
「弦を変えれば音も変わる」。それは事実だった。
22年で9種類、ギター2本に張り替えてきた。台帳に日付が全部残っている。
ここでは結論だけ書く。最後はマーチンの80/20ブロンズに落ち着いた。新品よりも、少し使い込んでギラつきが落ちた頃がいい。悪い言い方だが、弦が死んでる状態のほうが、ギターの箱の音が前に出てくる。
もう一つだけ。この箱はもともと、エレキ弦を張る前提で作られている。J-160Eに付いているP-90(磁石を使ったピックアップ)は、アコギ弦のブロンズ(銅の合金)をほとんど拾わない。アンプを通すと音が痩せるのはそのためだ。
ヘッドに重りを足す「ファット・フィンガー」を試した
さらに、「ファット・フィンガー」という小さな金属の重りも試した。ギターのヘッド(一番上、糸巻きが付いている部分)に挟んで留める道具で、弦の揺れを安定させ、音の伸びを長くするというものだ。
これが意外にも効果的だった。特にローコードでのストローク時、音の粒がしっかりして、全体に落ち着きが出た。

最近になって、こうも思う。
クリップ式のチューニングメーターも、ヘッドに挟んで重さを足しているという点では同じではないか。
付けたまま弾くと、なんとなく音が落ち着く気がする。
測ったわけではない。俺がそう感じているだけだ。

俺のはグルーブ・チューブス製で、写真の刻印にもそう入っている。この会社のものは一度、市場から消えた。
ただ今も手に入る。フェンダーの傘下に入って「Fender FATFINGER」の名前で売っている。ギター用95g・3,300円。寸法も重さも昔と同じで、変わったのはロゴと金具の色だけだという。
“密着スピーカー”でギターを鳴らすという発想
ちょっと変わった方法も試している。吸盤式の「密着スピーカー」を使って、ビートルズの曲をギターに直接振動させて流す。いわばギターに音楽を“聞かせる”ことで、木材をエイジングさせて鳴りやすくする、という考え方。
使ったのは三栄ハウスの「CEMI」というセラミックスピーカーだ。買ったのは2007年3月。貼り付けた物そのものを振動させて音を出す仕組みで、マグネットを使っていない。今は手に入らないようだ。


正直に言う。すぐ効くようなものではない。今日貼って明日変わる、という話ではない。
やっていることは、ギターが弾かれている環境に置いてやるのに近い。箱を鳴らし続けてやれば、木はいくらかそれに馴染むんじゃないか——そう考えている。
結果は、正直よくわからない。ただ、やらないよりはやった方が、振動がギターにいい影響を及ぼしているような気はする。
測ったわけではない。やるなら自己責任で。
それだけのことだ。
俺が買ったCEMIは、今は売っていない。だから代わりになりそうなものを探してみた。
同じ仕組みの道具が「エキサイター」の名前で売っている。Dayton Audio DAEX25なら2個で5,540円(税込6,094円)。
ただしアンプが別に要る。CEMIはアンプが入っていて、電池を入れれば鳴った。そこだけは昔のほうが手軽だ。
買っていないので、効くかどうかは知らない。
まとめ:正解はない。でも、近づける
完全に“あの音”を再現するのは、おそらく無理だ。録音環境も、ギターも、演奏者も、時代も違う。
けれど、自分の耳と指先を信じて、あれこれ試す中で、確実に「近づく感覚」はある。その一音の変化に気づいたとき、ギターとの距離が縮まる。
ギブソンJ-160E。今ではただの“再現モデル”ではなく、“自分の音を探す相棒”になってくれている。
音は上に2本貼ってある。練習なしの一発録りだ。
