最初はグラスの生ビールだった。
久しぶりに兄が帰ってきて、ちょっとした飲み会になった。
昼は喫茶店、夜はときどきバーになる店に集まった。
私と妻。
友達夫婦。
甥っ子夫婦。
久しぶりに顔を合わせて酒を飲む。
グラスの生ビールを置いたころ、誰かが言った。
「やっぱりビールはうまいよな」
「発泡酒はちょっとなぁ」
そう言って笑う人もいる。
そのやり取りを聞きながら、私は心の中で思った。
わかってんのか、お前、味。
途中で、生のおかわりを頼んだ。
すると店の奥から声がした。
「あっ、生ないです」
売り切れだったのか、
もともと少なかったのか、
そこは正直よく覚えていない。
とにかくその一言で、テーブルの全員が声を上げた。
「え~、ありえね~」
久しぶりの飲み会で、まさか生ビールがなくなるとは思っていなかった。
そのときだった。
店の奥の方から、
「ありえねーだろ」
「ばかじゃねーの」
そんな声が聞こえてきた。
実はこの店、店主は私の義理の姉。
つまり兄の嫁だ。
そして今、奥で騒いでいるのはその子どもたち。
私にとっては甥っ子である。
母親の店で生ビールがなくなって、裏で騒いでいるらしい。
本当に怒っていたのか、
ただ笑っていたのか。
そこも、よく覚えていない。
仕方なく、そのあとは缶ビールや発泡酒になった。
そこでまた誰かが言う。
「やっぱりビールはうまい」
私は缶を見ながら思う。
本当にそこまで違いがわかって飲んでいるのだろうか。
もしラベルを隠して出されたらどうだろう。
ビール。
発泡酒。
そしてノンアル。
コップに入れて出されたら、
本当に言い当てられるのだろうか。
正直に言うと、私は自信がない。
ビールでも普通にうまい。
発泡酒でも普通に飲める。
そして、もしラベルを隠されたら──
たぶん私は、よくわからない。
もしかしたらノンアルでも分からないかもしれない。
そう考えると、
「ビールはうまい」と言い切る言葉も、
どこまで本当なのか分からなくなる。
思い込みで飲んでいるのか、
雰囲気で飲んでいるのか。
その違いは、案外あいまいなのかもしれない。
そのうち私は、地元の地酒か、いいちこを飲んでいた気がする。
ビールだったのか。
発泡酒だったのか。
正直、もうどうでもよくなっていた。
今思い出すと、なかなか笑える夜だった。

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